Guide
By Jack Fukushima
© JackFukushima
グレートバリアリーフでは多くのプロダイバー達が、サンゴ礁の調査、保全活動をしていることを知っていますか?今まで、このサンゴ礁の保全や保護は特別な活動でしたが、ケアンズのリーフクルーズを運航するパッション・オブ・パラダイス社が、私たちにもこの特別な活動への扉を開けてくれました。ここでは一般ダイバー向けにエコツアーとして始まった「サンゴ礁調査」や「サンゴ移植」を体験・見学できる参加型保護活動の様子を紹介したいと思います。
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今回この活動を案内してくれるのはグレートバリアリーフ・サンゴ礁のスペシャリスト・マスターリーフガイド資格を持つラッセルさんです。見た目はちょっぴり怖い印象ですが、真面目な顔で冗談しか言わないとてもお茶目な性格の持ち主です。そしてなんと大の大阪好きで、あまりの大阪ラブのため身体の一部にタトゥで可愛い「タコのデザイン」と「食いだおれ」の文字が入っているんです。このツアーに参加される時は、ラッセルさんに出会えるかもしれませんね。
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行きの船内ではサンゴの生態やダイビングでの注意点などを説明してくれます。プログラム参加者専属スタッフとしてラッセルさんが水中も案内してくれるので、じっくり海を観察しながらグレートバリアリーフでのダイビングを安全に楽しむことができるのも特別感を感じます。でも、サンゴを傷つけないために、久しぶりに潜る時は前日までに少し経験を積んでから参加してくださいね。まずポイントに着いてダイビング器材を背負い水中で行うのは、一定区域内の生態調査です。指定のフォームを活用してサンゴや海洋生物たちの状態や数を確認します。『どんな種類のサンゴを見つけた』『2種類のウミガメがいた』などの情報をフォームの写真を見ながらチェックするので、詳しい知識がなくても大丈夫です。そのサンゴ礁の健康状態を調査した観察内容を元に、海洋公園局への報告書を作成していきます。
自ら観察した保護活動のデータが未来のサンゴ礁保全のために役立つことになるなんて夢をつなぐようで素敵ですよね。
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パッション・オブ・パラダイス社ではシドニー工科大学が監修する「サンゴ育成プログラム」にも参加しており、特別に許可された水域でのサンゴ移植(苗付け)を見学することもできます。
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ここでは折れてしまったサンゴなどを金網に固定させ苗の育成を行なっています。
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一見岩や植物の枝のようにも見えるサンゴですが、実は動物だということを知っていましたか。上の写真にある表面の小さなぶつぶつした突起部分がサンゴ虫の住処(ポリプ)で、たくさんのポリプが集まって形を作っています。サンゴの形は種類、環境などによって変わっていて、1年に一度卵を産んだり、細胞分裂をして成長しているのです。また動物にも関わらず体表面に植物性プランクトン(褐虫藻)を住まわせて共生し、光合成をさせることで栄養素を得ています。岩サンゴは1年間に1ミリ程度しか成長しないのですが、枝サンゴは年間10センチ以上も成長する種類もあるのには驚きです。
© Passions of Paradise
上の写真では、金網に固定された枝サンゴの一部が8ヶ月ほどの間に長く成長していることが確認出来ます。あなたがツアーに参加した時に育成を始めたサンゴが、1年後再びケアンズに戻ってきた時に大きく成長していたら感動しますよね。
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サンゴが死んで岩盤となったサンゴ礁表面に、ここで成長したサンゴのかけらを利用し移植するする実験も行なわれています。つまり金網で育成されたサンゴを苗として、実際にサンゴ礁を復元できるのかという試みになります。現在育成しているサンゴの種類は比較的成長スピードの早い枝サンゴを実験対象としています。今後実験が進んでいけば成長の遅い岩サンゴも対象に入れたいそうですが、岩サンゴは採取する時にポリプが割れて死んでしまう確率が高く移植がとても難しいそうです。育成に使われている金網は、どれもほぼ同じ環境下(同じ深度、水域)にあるのですが、同じサンゴの種類でも位置によって成長の度合いが異なっているのは不思議でした。
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ラッセルさんはスーパーの買い物カゴの中にブラシ、カナヅチ、針金付きL字型のクギ、そして苗床から採取したサンゴのかけらを入れて運びながら、移植に適当な場所を探しています。
移植の場所を選定する基準は特に決まっていないそうですが、ラッセルさんは「太陽の光が注ぎ込み、潮当たりの良い場所」を選んでいるそうです。こういった環境がサンゴの成長しやすい場所だそうです。また移植するサンゴの種類の選別は生物多様性を考慮するため、その周辺に同じ種類のサンゴがないかも確認しているそうです。左下の写真では、サンゴが死んで岩盤となったサンゴ礁をブラシでこすり、砂やコケなどを落としています。
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そして右上の写真では、掃除が済んだ岩場にカナヅチで針金が付いたL字型のクギを打ち付けていきます。
クギから出ている針金部分でサンゴを岩場に抑えつけて固定したら移植完了です。この子が数年後には大きな枝サンゴに成長して、小さな魚達のパラダイスになることを想像してしまいました。
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移植されたサンゴの中には、条件が悪かったのか死んでしまいコケに覆われてしまうものもあります。なぜ死んでしまうのか原因はまだ特定できていないそうです。
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そうかと思えば、支えていたクギや針金をも包み込んで元気に成長しているサンゴもありました。
あなたが観察して集めたデータからは短期間で結果を求めることはできませんが、10年後100年後にサンゴ礁を残すための小さな一歩であることは間違いありません。今はまだダイビングライセンスを持っている人のみのプログラムではありますが、近い将来シュノーケリングでも参加していただける内容で多くの人々にサンゴ礁の神秘を実体験してもらいたいと思いました。
© JackFukushima
世界中のサンゴ礁は死滅し始めていると報道されたりもしています。個人的に30年ほど前からグレートバリアリーフで潜り続けていて、温暖化による水温上昇やオニヒトデ(サンゴを食べてしまうヒトデ)の蝕害によって、一部死滅したと思われるサンゴ礁を見たこともありました。しかしサンゴ達は環境さえ整っていれば3年もすると元の状態、いやそれ以上のサンゴで覆われるほど、復活を繰り返しサンゴ礁が成長していることを目の当たりにし、いつも自然の偉大さを感じています。
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上写真:この場所は2016、17年の水温上昇で全てのサンゴが白化した場所ですが、今年2021年に再び訪れると、サンゴが群生し魚達も戻ってきて素晴らしい生物多様性の環境を作り出していました。
サンゴの移植や育成に関しては世界中の科学者の中でも賛否両論あるようです。人が手を入れて自然をコントロール(保全)することなど人間のエゴなのかもしれません。自然の治癒力に任せて人の手を加えないことで保護する方法もあるでしょう。しかしサンゴの生育環境に変化が起きていることはまぎれもない事実です。今回ツアーに参加したことで、今後もサンゴ礁の生態系を維持するための実験的な試みとして、サンゴの育成や移植でデータを取り分析することは大切なことだと改めて感じました。
温暖化のような世界的規模の環境問題なども含めて、個人がグローバルに悩んでしまうとどうしたら良いかわからず行動に移せませんが、まずはローカルで何ができるのかを考え、体験し、行動に移すことが次の一歩につながるのだと感じます。ケアンズを訪れた時に、このローカルな視点で体験できるエコツアーに参加してあなたが何を感じたか、ぜひ教えてください。
© JackFukushima
文・写真(タイトル下のトップ画像含む):Jack Fukushima (旅コーディネーター)